天空の花嫁(前編)


数々の魔境をくぐり抜け、ようやくたどり着いたラムタラ横浜店。
香山聖a.k.aヒジリンとの出逢いは、そこから1〜2分歩いた
「ハリウッドビデオ」というレンタルビデオ店で行われることになっていました。


AV女優とナマで逢える、大発射のゴッドハンドと握手できる、
そして、あの運命の声の主は、本当にヒジリンだったのか?
さまざまな思いを胸に秘めつつ入り口の前に立ったぼくは、
恐怖感とも安堵感とも言えない奇妙な興奮に包まれていました。


高ぶる気持ちを抑え中に入ると、店内は意外にも普段と変わらず穏やかな様子。
まさか、これからココでAV女優の握手&サイン会という
マイノリティ感あふれるイベントがあるとはつゆ知らず、といった感じです。


というのも、このハリウッドビデオというお店は3階建てになっており、
1〜2階が映画やバラエティなど通常のラインナップで、3階はワンフロアすべてがAVコーナー。
つまり、AVコーナーは完全に隔離されたフロアなわけです。


で、あまりの平安ぶりに、ホントにここで合ってるの?
みたいな不安もありつつ3階まで上がってきました。
ようやくアダルティーな雰囲気になってきてはいるものの、
ココでもパッと見では宴が始まっている気配もありません。
しかし、こんなところで引き返すわけにも行かないので、
AVジャングルをかき分け、もう少し奥に進んでみると、
ようやくスタッフ風のオタクがいました。


「香山聖&月野はるか 握手&サイン会」
と書いた特別エプロンを着てぼーっと突っ立っています。


本来であればこんな人間とは口も聞きたくないのですが、
今日のぼくはAV女優のサイン会参加者という圧倒的弱者なので、
「あの〜、サイン会に参加したいんですけど…」
と、恐る恐る聞くとそのオタク店員は思いの外愛想良く、
「整理券をお持ちですか、お持ちならこちらへどうぞ!」
と、さらに奥地(コーナー的にいうと人妻モノとかSMとか
AVの中でもさらにマイナージャンルのあたり)へぼくを誘いました。


しかし、そこにまだヒジリンたちの姿はなく、
姫たちの出現を心待ちにしている侍たちの行列ができています。
ぼくはその最後尾に並ばされ、イベントの始まりを待つことになりました。
まぁ当然、こんなところですることはただ一つ、辺りの侍たちの観察です。


AV関係のイベントに来る人間なんて、ロクデナシしかいないわけで、
当然その日もいるわいるわ、見てるだけでこっちの胃に穴が開きそうなヤツらが。
ちなみに、ぼくの前に並んでいるヤツなんて、見た目はどーしょもないオタクなのに、
髪の毛はなぜか金髪。しかもなんかアタッシュケースとか抱えてて、アメイジング度100%。
とーぜん汗だくで柔道部の部室みたいなニオイがすんの。
ぼくはニオイ関係は非常に苦手なので、結構辛かったです。
ほかにも、向こう30年間窓際人生が決定しているようなサラリーマンとか、
永久童貞を固く誓った予備校生風の男子4人組とか、
今にも射精しそうな勢いのオタクデブとか、
ビジュアルショックのでかいモンスターが集っておりました。
そんな連中を眺めていると、ようやくヒジリンの握手&サイン会がスタートしました。


参加者のインパクトが強すぎて、当初の目的を忘れかけていたぼくでしたが、
ヒジリンの登場には緊張感が高まりました。


ようやくナマのAV女優と逢える。


そのとき、ぼくはこれまでのAV人生を走馬燈のように思い返していました。
初めて観た桜木ルイ作品のセリフまわしに感動し、
AVのなんたるかを学んだレンタルビデオでのバイト時代、
少しの時間があればヌキにヌキ狂った予備校〜大学時代。
けっして平坦な道のりではなかった。


そんな感慨に浸っているぼくの前で、例の金髪オタクは
おもむろに自らのアタッシュケースをあけ、
まるで、ゴルゴ13のように何かを組み立て始めました。
よく見てみると、なんとバズーカ砲のような望遠レンズがついたカメラでした。
っつーか、この距離で必要ねーべ。


色めき立つ変態どもに圧倒されていると、
あっという間にぼくの番がきてしまいました。
心の準備もへったくれもあったもんじゃない。
気が付くとぼくの目の前には月野はるかちゃんがいました。


そのとなりには当然ヒジリンがいるんですが、
緊張のあまりそちらを見ることができません。
そんな思いをよそに月野はるかちゃんは上目遣いで、「お名前は?」と聞いてきます。
そしてなんと彼女、両腕で胸を寄せて自らのセールスポイントを
アッピールしているではありませんか!
ジャーブラからこぼれ落ちそうなそれを見たい!見たくてたまらない!
しかし、ココで見たらまわりの変態と同じじゃないか!
そんな葛藤がありましたが、なんだかんだ言いながらも
彼女のジャーブラと谷間はぼくの心に刻み込まれています。


【つづく】

  • 今日の1曲

Viva la vida / G.Rina